第8章 𝕊𝕦𝕟𝕗𝕝𝕠𝕨𝕖𝕣
えぇ…!私は保健室のドアと、教室のある方向を交互に視線を巡らせる。轟くんに言わなきゃ…でも
「さっさと来い」
横!暴!私は覚悟を決め、保健室とは反対方向に駆け出す。轟くんにはあとでラインすればいいよね。スマホを片耳に当てたまま階段を駆け上がる。
通話をしているだけで、勝己くんが近くにいるような気がしてつい隣にいるテンションで話を振ってしまう。
『あ、そういえばずっと聞こうと思ってたんだけど…』
「切んぞ」
『階段のときに私のこと前に比べてナヨナヨしたって言ってたよね
ってことは昔の私って勝己くんから見たらどんな感じだったんだろって気になってたの』
一瞬ほんとに通話を切られたのかと思い足を止めかける。勝己くんはぷつりと黙ってしばらく穏やかな沈黙が続く。
……なんかまずかったかな
何も聞こえないそれは、奥行きのないただの板切れにでも耳を押し付けているような感覚で
「さぁな、クソほど興味なくて忘れたわ」
『んーー??前はてめェと一緒にすんなっとか言ってたじゃん』
「つまんねぇ事言ってねぇで足動かせアホッ」
…イラッ、すっぽかしてやろうなんて頭に浮かぶけど、そんなの微塵も行動に移す気にはなれない
この階段を上り、右へ一直線すればあっという間に教室に辿り着いてしまう
『ってか勝己くんだって昔と変わったし』
「あ?覚えてねぇだろうが」
『いいやそんな口悪くなかったと思うけど?』
「殺す」
やっぱり懐かしくて、電話越しに彼に伝わらぬようにスマホを離して笑い声を洩らす。
…この感じも安心、なのかな
轟くんとも違うけど似てて…分からない
怖いようで、でもそれを覆すほど心が波立ち騒いで落ち着かない
教室に行けば何かが変わる気がした
きっと、今の私を変える何かが
最後の一段を踏み切ろうとしたときだった
「…変わってねぇとこが一つあるとしたらな」
「ウンザリするほどてめェに二度も惹かれちまってる」