第7章 𝔸𝕟𝕖𝕞𝕠𝕟𝕖
『…けい…ご…くん…?』
まだ呼び方が慣れなくて、本人を前にするとより擽ったさがある
それはそうで彼と出会ってから五年間ずっと"皆が知ってる"ホークスと呼んでいたから
その五年間誰よりも私がホークス、と口にした自信がある
「お、その呼び方もう定着してくれ…
ひかりちゃん…?なんかあった?」
啓悟くんの顔から笑みがさっと消え、悲しげな面持ちに変わり私の身を案じてくれる
…なんで啓悟くんまでそんな顔するの…
私はまだ頬に残ってる雫を袖で跡形もなく拭き取る
『…なっんもないっ!啓悟くんの顔見たら全部吹っ飛んじゃったよ
でもほんとにびっくりしたー!一ヶ月前にあんな大げさに別れ…』
「オレじゃ言いづらいこと?」
目を見張ったまま全身張り付いたみたいに固まる
口も思うように動かなくて声も出ない
啓悟くんは空中で翼を大きくバサッと一度広げると、隣へと足を落とす。
『…言ったら』
゛頼りたくなる ゛
「……」
これ以上は言葉を紡げなくて、俯き、顔を左右に何回も振って言えない意を伝える
沈黙を断ち切るように小さい溜息が降ってくる
「どうしても言ってくれない?」
『……言えないよ』
「一生のお願いでも?」
『…ごめんね』
「そこをなんとか」
『…だから…言ったら啓悟くん嫌な思いすると…思うし…』
なんか…めっちゃ粘ってくる
どこまで本気なのかわからないテンションで返し方に困る
「色々ショックなんだけど…
オレが嫌がるとかなんで ひかりちゃんが勝手に決めつけちゃうわけ」
心臓の奥がズキッと痛む
…なんか啓悟くんムカつくかも…
知らず知らずのうちに両拳に力が入る
『私にだって色々あるの!
もういいじゃんこの話は!』
「好きだよ」
場違いな言葉に顔が上がる
『…え』
「立ち話もあれなんでそろそろ中に入れてくれませんかー?」
『あ、あぁうん…ごめん?』
聞き間違い?幻聴?気のせい、だよね…
あれれ?混乱しながらも窓を開けて彼に入るように促す
剛翼を上手に動かし、狭い私の部屋に踏み入れる啓悟くん