第2章 夏休みです
あたしは、生まれた以上、人はみんな幸せになるために生きるんだと思ってる。
じゃあ幸福と不幸の境目はどこ?
実力、地位、金、何ひとつ不自由ない身体
多くの人が、それは幸せだと言うだろう。
でもたったひとり『五条悟』であること
それが、あたしには途方もなく残酷なものに感じられるんだ
「悟以外の誰も、五条悟にはなれない」
なってあげられない。
どれだけ近くにいようと、きっと本当の意味で理解することは叶わない。
崇拝、羨望、尊敬、嫉妬、哀憐
身勝手な他人から、時に無意識にも注がれる「呪い」を背負うには、人一人の背中は小さすぎるのに。悟は、優しいからさ。
「でも」
幸も不幸も、他人が押し付けていいものじゃないってわかってる。
だからせめて、彼自身が選べるようにあってほしいと。
悟以外の誰の何のフィルターも通さずに、その青く澄んだ瞳のように、光を携えて、どこまでも透き通って生きてほしいと。
『どうか幸せに』
その呪いが声帯を震わせることはなくて
千聡はゆるく絡めた指を握った
「なんだ?おセンチか?」
「意外と古い言葉使うね」
「…ばあやが言ってたんだよ」
「ばあや、いいね」
「今、なんか言おうとしてたろ」
「え?」
いつの間にか、悟は千聡を見つめていた
「言いたくねえならいいけど」
「言いたくないわけじゃないけど…」
「なんだよ、あ、傑の好きな女のタイプは…」
「ストーップ!なんでこの流れでそうなるの!?全然違うけど、それはそれで気になっちゃったから今度聞かせて!」
「じゃあなんだよ?」
「…言ったら、悟を呪うことになりそうで」
「お前呪言師だったっけ?」
「違うけど」
「なら言えよ。そんなの呪いでもなんでもねぇ」
千聡は、胸いっぱいに静謐な夜の空気を吸い込んだ
ありきたりだけどさ、
「悟は、ひとりじゃないよ」
青い瞳はぱちぱちと数度瞬いて、一度ゆっくりと閉じられた
「…弱っちいくせに生意気なんだよ、お前」
「そろそろ戻るぞ」と体を起こした悟が、たぶん、きっと、ちょっとだけ、嬉しそうだったから。
千聡は勢いよくその手を握った