第10章 知らない女の子と五条くん
「寧々」
硝子が完全に店を出るのを見送った五条くんがぽそりと呟く。
「今なら堂々とあーんできるんじゃねぇ?」
「しないわよ」
注文したパフェの大きさこそ違えど、使うスプーンは同じ大きさのもの、
今度こそ墓穴を掘るような真似をする訳にはいかない。
「寧々からじゃなくて俺から寧々に。ほら、口開けろよ」
「馬鹿じゃないの」
五条くんはスプーンでアイスとイチゴとバナナを器用に掬って、私に差し向けた。
私はペンギンのようにおねだりなんかはしないし、青い瞳と白い髪の誰かさんのように口を開けて待つようなことはしないのよ?
「アイス、早く食べないと溶けるわよ」
いくら五条くんと言えども食べ切るまでには時間が必要でしょうしね。
「なに?照れてんの?」
「本当にそう見えてるなら六眼も大したことないのね」
「寧々の可愛さに目が眩んでるってこと、伝わってねーの?」
「あのねぇ…」
ここは硝子が言っていたあの便利な言葉でも使いましょうか。
「私、人前で手を繋いだり食べさせあったり、いちゃついたりなんかはしたくないのよ」
「……あー、そう」
五条くんは私に差し出したスプーンをくるっと持ち直し、大きな口でぱくっと頬張った。
「つまりはこういうことだな?」
「……!」