第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
振り向くと、すぐに杏寿郎はひなたの元に戻って来た。
「怖かったか?一人にして悪かった」
杏寿郎はひなたを気遣うような瞳で尋ねてくる。
まだ、早かったかと心配だった。鬼に傷をつけられた女の子に、鬼を見せつけた。ひなたは鬼殺隊に入りたいと懇願してきたが、今はその時ではなかったのかと、杏寿郎の胸中は複雑だった。
「ひなた」
ひなたの背丈に合わせ顔を覗くように見た。
ひなたは、ぼんやりとした目をして杏寿郎の顔を見た。それから、視線を逸らして里の方に目をやった。
さっきと同じように、村の人が歩いて行く様が見える。杏寿郎が言っていたように、きっと、古くからの慣習を守り、真夜中の道を歩いて…。
…煉獄さんが、今の鬼を倒さなければ。
きっと、あの鬼は人の中に飛び込んだりして、平和なあの住民たちは一瞬で襲われていた事だろう。
何事も無く、当たり前に行き交う人を見ていると、ひなたの中にある思いが芽生えてくるのだ。
「…誰も、誰も知らないね…。煉獄さんが、今、ここを守った事を」
「…む? 」
ひなたは煉獄さんの方に視線を戻した。
「煉獄さんがいなかったら、鬼はあの人達を襲ってた。あの人達は、家族をバラバラにされたりして幸せじゃなくなってた…。煉獄さんは、あの里の人を守ったのに、みんな、それを知らない。煉獄さんは…凄い事をしたのに誰からも感謝されてない!…私、何がいいたいのかな…」
ひなたは泣きそうだった。今見た煉獄さんの刀捌き、とんでもなかった。ひなたの時代にはこんな人はいない。
今見た事の感動を、凄さを、言葉にするのは難しい。ただ、胸は高まっていて、煉獄さんへのリスペクトが止まらない気持ち…。
「ひなた。それが鬼殺隊だ」
杏寿郎は微笑んでいた。
「人の暮らしを守る。それが誰の目に留まるかなどは問題じゃないんだ。俺達が助けた人がこの先も天寿を全うしていく。その為にこの命がある」
「君の、お館様は誰よりもその想いがお強い御方だ」
ひなたは、そんな師範から目を逸らせなかった。