第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一
「そうなんですか?そうは見えないですけど」
「実際ゴリラだから。…俺は真逆のタイプだけどね。さ、行こう」
「いえ、ほんとに大丈夫ですから」
「でも場所分かんないと困るでしょ?」
「その時は先生にでも聞きます」
「校内周りながら色々と話そうよ。話せば俺のこと少しくらい理解できるでしょ?」
「……別に理解もしたくないんですけど」
「そんなの分からないでしょ?俺もこのままじゃ引くに引けないし」
引くに引けないって相手はずっと引きっぱなしなのいい加減に気付け。ほんと面倒くさい状況に持ってく天才だよな、及川って。明らかに嫌がってんのにこいつにだけ逆になんも言わない方がおかしいだろ。
「そのくらいにしとけよ…。困ってんだろ」
「でもせっかくのチャンスだし…。あ、ならさ、岩ちゃんも行く?」
「は?」
「いきなり俺と二人きりじゃ緊張もしちゃうもんね」
明らかに緊張じゃねぇし一体どういう頭してんだこいつ…。でも及川の問いかけにあいつの目の色が変わったのを俺は見逃さなかった。
「じゃ保健室…の場所だけ教えてもらえますか?私、持病があって」
「え?そうなの?大変じゃん!なら絶対覚えとかないとじゃん」
「……じゃ、保健室にだけ」
こいつはこいつでちゃっかりしやがってよ。絶対分かってやってるに決まってる。
「じゃ早速行こうよ。ほら岩ちゃんも早く」
「ったくなんで俺が」
なんかさ、俺の運がただ単に最悪なだけなんかもしらねぇけどクラス替えしてまだ数時間なのにすでに疲れた。つーかイライラする。
「お前、あとでラーメン奢れよ」
「は?なんでさ」
「そんくらいやってもらわねぇと気が収まらねぇし」
「……すみません」
「まぁたそういうこと言う。いちかちゃんは全然気にしなくていいからね。さ、行こう」
エスコートするように隣に並んで歩くのを仕方なく俺も付いていく。及川のマシンガントークにも相変わらず素っ気ない返答だけで俺はその場の空気。保健室までの道のりがもはや地獄だった。