第35章 約束
──花街 遊郭
此処では男と女の愛憎が渦巻いている。
遊廓で働く女は貧しさや借金で売られてきた奴らが殆ど。
詩乃もそうだった。
たくさんの苦労を背負っているが、そのかわり衣食住は確保され、遊女として出世できれば裕福な家に身請けされることもある。
中でも遊女の最高位である花魁は別格。
美貌・教養・芸事全てを身につけている特別な存在。
位の高い花魁にはなかなか会えないため、逢瀬を果たすために競うように足繁く通う男たちの心理を上手く操っている。
前を歩く三人の餓鬼どもの隣に息を呑むような美しさの女が一人。
すれ違う男達が必ず足を止めてほの花を見てくるので俺は柱の本領発揮と言わんばかりの睨みを効かせてやる。
そうすれば大抵の男は慄いて逃げていくが、それは道すがらだからだ。
一度、遊廓の中に入れば断ることなんて出来やしない。
分かってんのか!コイツは?
呑気に笑いやがって…。俺がどれほど後ろで苦労を強いられているのか…。
「ほの花なら花魁になれちゃいそうだね〜!!美人だし、薬師としての教養もあるし!」
竈門がそんな風にほの花を持て囃すのも気に入らない。花魁なんかになってもらっちゃァ困るんだ。
他の男に易々と抱かれるなんて俺が絶対に許さない。
「でもよぉ、祭りの神の話じゃ、げーごと?だつーのもできねぇといけねぇんだろ?」
そうだ、猪頭。たまには良いこと言うじゃねぇか‼︎初めて猪頭を褒め称えるに値する発言に口角を上げた。
「馬鹿だな、お前。ほの花は歌がすごい上手いの忘れたのかよ?俺たちが怪我をした時によく蝶屋敷で歌ってくれてたじゃねぇか。」
「おお!そうか!じゃ、オイランになれんな‼︎」
「あはは…なれませんって…」
曖昧に笑うほの花だけど、黄頭の言葉は俺の頭を鈍器で殴るような衝撃があった。
そう言われれば、隣の部屋からことあるごとに綺麗な声で鼻歌が聴こえてきたのを忘れていた。
正宗達の話によれば此処に来る前に全国津々浦々、歌で生計を立てていたこともあるらしい。
まさかこの時のためにそんな特技を習得していたんじゃないだろうな?と頭を抱える羽目になる。