第35章 約束
ほの花は結局、恋人のことはそれ以上話さなかった。
知りたい反面、知ればほの花に意味のわからない独占欲を押し付けてしまうかもしれない。
正直、ギリギリな線だ。
来世で恋人と添い遂げられるように祈ってくれと言われたが、それは遠回しに今世では誰のものにもならないと言っている。
諦めなくてもいいだろと言っても取り付く島もない。
祈れるわけねぇだろ。
他の男と幸せになることを。
そんなことをほの花に言っても俺たちは既に違う方向を見ている。
この行為が愛のある行為だったと言っても遅い。
交わらない。
それぞれの平行線を歩いている
それでもこの行為をしたことで何らかの戦果を期待せずにいられない。
「…ほの花、体何ともねぇか?」
「あはは…もうやめてくださいよ。蒸し返すの。もうやめましょう。その話は。師匠がスッキリしたのであればそれでいいじゃないですか。」
「いや、けどよ…。」
「ひとつだけお願いがあります。」
話を蒸し返すなと苦笑いを浮かべるほの花が持っていたおにぎりを下におろして真剣な顔を向ける。
「…このことは絶対に奥様達に言わないでください。言わなければ無かったことにできます。大切にしてあげてください。」
ああ…
やっぱりそうだよな。
お前はそう言う奴だ。
分かっていた。
それでもハッキリと言われると結構クるものがある。
俺とのことは無かったことにしたい。
ハッキリとそう言われると虚しさがその空間に広がる。
万が一、俺との子を孕んだとしてもほの花は違う男の子を身籠ったと俺たちに言うだろう。
それほどまでに俺との距離は遠い。
分かってる。三人も嫁がいるから四人めだなんて安易な考えが思い浮かぶが、本来一般的には三人ですら多いことは。
だったら…どうすればお前が手に入った?
碌でもない考えしか浮かばない。
どこからやり直せばお前が手に入る?
「無かったことに、してぇの?」
「…したい、というか…しなければ駄目ですよね?師匠ったら変なの。気にしないでいいですよ!私、大丈夫ですから!」
お前が大丈夫でも俺が大丈夫じゃない。
抱いてしまって情が移るのはよくあることだが、喉から手が出るほどに欲しくてたまらなくなったのは初めてだった。