第1章 はじまりの夜
「あなたは? それに、ここは……?」
さっと瞳を巡らせ、彼女はここが祖母の書斎でもなければ、
同家の自分の部屋でもないことを理解した。
「私はベリアン・クライアンと申します。
この世界における、貴女の執事でございます」
(! マリス……!)
「私の他に猫が、………黒猫がいなかったですか……!?」
急いて起き上がると、その身を駆け抜けたのは鮮烈な痛み。
「いたた………。」
腕を押さえる肩に大きな手がふれる。
花が降るような優しい手付きでそっと添えられた。
「主様、ゆっくりと起き上がりになられてください。
お身体に障りますから」
「は、はい」
温かな指の感触に少しだけ身を固くしながら、彼の手に従ってゆっくりと半身を起こす。
「…………………。」
(ここが、おばあちゃんの言っていた、私の往くべき場所なのかな………。)
みずからの指で煌めく指輪に視線を落としていると、
「お腹はすいていませんか」と温かな粥とスープの乗った盆を引き寄せた。
「失礼します」と一度断りを入れてから、
スプーンで掬った粥にふぅ、………ふぅ、と吐息を吹きかける。
「どうぞ、………主様」
そう言って彼女の唇にスプーンを近づける。
「っ………。」
素直に唇をひらくけれど、否応なく頬に熱が集うのを感じる。
自分で食べようと指を伸ばしたくても、軋むような身体の痛みがそれを阻んだ。