第6章 惑いの往く末 前編
(……私は、)
軋む心臓に指をあて、ヴァリスはその場にしゃがみ込んだ。
そのまま、儚い肩を震わせる。
(どうして、………どうしてっ)
ぽた、ぽた、とシロツメクサの花の上に降る雫。
あの夜のことを思い出す度に、いつだって涙が止まらない。
時間は過去の痛みを浄うというけれど、ヴァリスはどうしてもそれが信じられなかった。
立ち上がりぐっと涙を拭うと、あの歌を口ずさむ。
「お眠りなさい………」ではじまるその歌は、
小さい頃に寝台で眠りにつく時に母が歌ってくれたものだ。
深く息をついて痛みを押し込める。
自分の掌を見下ろし、その指で光る金の指輪をみつめていると。
中央に嵌め込まれた幽霊石に、キラリと鈍い光が映り込んだ。
「!?」
はっとして頭上を振り仰ぐと、鈍色を放ちながら降り立ったのは。
『死になさい。命のために』
いろも光も宿さない、奈落のような瞳。
肌も髪も服装も、不吉なまでに白づくめな其の少年は。
「そんな……。どうしよう………っ」
動揺するヴァリスをよそに、天使たちは彼女へと指を伸ばしてきた。
恐怖が胸を染め上げ、思わず瞳を封じる。
『死になさい。命のために』
その指が彼女の髪に触れかけた、その刹那だった。
ザンッ! 風の凪いだ音がして、指が急速に離れていく。
そっと目をあけると、そこにいたのは。