第6章 惑いの往く末 前編
「どうしたの、バスティン?」
彼を見上げる瞳。
そっとみつめる眼差しに気恥しくなったのか、彼女から視線を解きながら呟く。
「主様、俺と来てくれないか? その……主様の時間が許すならばだが」
みずからの後頭部に指をかけ、遠慮がちに口にする。
そのぎこちなさに微笑むと、瞬く間にその頬に朱が集った。
「っ……笑わないでくれ、」
少しだけ厳しくなった瞳。そのさまにも微笑ってしまい、ますます紅くなった。
「ご、ごめんなさい。少し……意外だったから、」
くすりと彼女が微笑う。その声は彼女自身の耳にも楽しげに響いた。
「俺がこういう事が苦手だって、もう知っているだろう」
拗ねた調子で呟かれ、漸く笑みを収めた。代わりにその唇に微笑を描き彼を見上げる。
「何処へつれていってくれるの?」
瞳に悪戯めいた光を宿し彼をみつめる。その視線の先で、バスティンは唇にかすかな笑みを描いた。
「それはまだ秘密だ」
手袋に包まれた片手を差し伸べられる。そのさまに優しく微笑って、
白くたおやかな指が触れ、そして重ねあわせた。
わく、わく、と高鳴る胸を抱えて。