第3章 香久夜の過去
立ち上がった恵に、少し傷ついたように視線を向け、そしてまた黙って卵焼きを食べ始める香久夜を五条は見つめて、「やれやれ」と眉毛を動かした。
五条は箸を置くと、二人を交互に見た。
香久夜は何も気にせず、卵焼きを口に運んでいる。
(本当にこの子達は、不器用さが似てるというかなんというか)
そんなことを思いながら五条は香久夜を見た。
「……」
「はい、」
「昨日、ちゃんと眠れた?」
五条の問いに香久夜は少し考えて、さっきの起きる前のことを思い出す。
香久夜はそのまま動かず、みるみる顔を真っ赤に染めた。
「…え、何その反応、ちょっと恵ちゃーん!?もうのこと完食しちゃったの?」
「し、してませんよ!!!」
「じゃあ味見?」
「いや、それは…」
「な、なに?なんの話?」
二人の話の内容についていけず、正気を取り戻した香久夜。
五条は楽しそうに頬杖をついた。
「僕がいない間も、仲良くしてたんだなぁと思って」
「……先生」
「はいはい。何も言ってませんよ〜」
恵が露骨に嫌そうな顔をする。
香久夜だけが、二人の間に流れる妙な空気を理解できずに首を傾げていた。さっきの思い出してたことは、一旦忘れよう。
「…ふぅ。」
一息ついた彼女を見て、五条はふっと笑う。
それから、少しだけ真面目な顔になった。
「さて」
「?」
「朝ご飯食べ終わったら、ちょっと訓練しよっか」
香久夜の手が止まった。
「訓練?」
「うん。呪力の循環」
「……今日も?」
「今日も」
五条は軽い調子で答える。
けれど、そのサングラスの下だけは笑っていなかった。
「昨日までより、もう一段階上げるよ」
「…はい」
香久夜は素直に頷く。
恵も箸を置いた。
「俺もやる」
「もちろん」
五条は笑う。
「今日は、ちょっと面白いことが分かるかもしれないからね」
その言葉の意味を、このとき二人はまだ知らなかった。