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呪術回戦ー八月の忌み子ー

第8章 姫の呪い




涙で濡れた香久夜の目元を、恵の親指がぬぐう。その指先すら、彼女の肌の熱に侵されて微かに震えていた。


「んっ……め、ぐ……っ」

「……泣くな。自分から煽っといて」


低く言いながらも、重ねられる唇は痛いほど優しかった。

吸い上げられる吐息とともに、体内に溜まっていた甘く澄んだ呪力が堰を切ったように恵へと流れ込んでいく。


「んあ……っ……ぁ……!」


いつもより格段に濃厚な体液の交換。背中を駆け抜ける強烈な痺れに、香久夜のつま先がギュッと丸まり、背中が大きく反り上がる。
日常の「呪力チェック」のキスとはまるで違う。


七海の前で見せていた冷静さも、普段の無口な少年らしさも、今の恵には何一つ残っていなかった。


「……服、脱がすぞ」
「あっ……や、だ……電気……消して……っ」


恥ずかしさに耐えかねて懇願する香久夜の言葉を無視し、恵は彼女の帯を躊躇なく引き解いた。乱れた着物が左右に押し開かれ、白磁のような肌と、早くなる鼓動に合わせて上下する胸元が、暗がりの中のほのかな明かりに露わになる。


「消さねぇ。……お前のこと、全部見たい」
「っ……ひぁっ!?」


恵の手が、香久夜の華奢な腰を掴み、引き寄せた。
素肌と素肌が直に触れ合った瞬間、お互いの体温が爆発的に跳ね上がる。

今まで「境界線」を守るために必死に抑え込んできた欲望。
彼女を自分だけのものにしたいという独占欲が、恵の理性を完全に塗りつぶしていた。


「……あ、ダメ、そこっ、」
「ダメじゃないだろ。俺の名前呼んでたくせに……逃げるな」


香久夜の太ももの間に自分の膝を滑り込ませ、逃げ道を完全に塞ぐ。
触れ合う皮膚のあちこちから、溢れ出た呪気の熱が二人を包み込み、まるで密室の空気を油のように重く甘く変えていく。


「めぐ……私……おかしく、なっちゃう……っ」
「おかしくなれよ。……俺も、もうとっくにおかしくなってんだから」


恵は香久夜の涙で湿った目元に、鼻筋に、そして唇に何度も何度もキスを落とした。

ぎこちなく、けれど二度と離さないと言わんばかりの強い力で抱きしめられ、香久夜は彼の首に必死にしがみつく。

夜はまだ始まったばかりで、二人の逃げ場のない初めての夜は、どこまでも深く、甘く、熱く更けていいった。

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