第7章 葛藤
カーテンの隙間から、冷たく薄い朝の光が差し込んでいた。
「ん…」
香久夜は重い瞼を開けた。全身に残る微かな痺れと、だるさ。
視界に映ったのは、五条の隠れ家の天井だった。満月の夜の狂乱も、恐ろしいほどの熱も、すべてが嘘のように引き散らかされている。
ふと横を見ると、ソファーの傍らに置かれたパイプ椅子に、五条が足を投げ出して座っていた。目隠しは外され、蒼い六眼がじっとこちらを見下ろしている。
「五条せんせい、」
かすれた声で呼ぶと、五条の唇がいつものように緩やかに持ち上がった。
「起きた? 体調はどう? まだ頭クラクラする?」
「いえ、体は、大丈夫です…。」
香久夜は自身の掌を見つめ、ギュッと拳を握りしめた。
昨晩の自分を思い出す。
自分が、自分じゃなくなったみたいだ。
あの夜、自分を助けようとしてくれた恵くんを危険に晒し、五条先生にまで酷いことをしてしまった。
両親を殺し、今はやっとできた大事な人たちを、また傷つけている。
胸の奥から溢れ出すやるせなさと自己嫌悪に、香久夜の目からぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ごめんなさい、私…っ、ごめんなさいっ」
「はいはい、泣かないの」
五条は小さく息を吐くと、ソファーの端に腰を下ろし、大きな手で香久夜の頭をぽんぽんと優しく叩いた。
「言ったでしょ。力の使い方で君はいつかたくさんの人を救う。今はその過程だよ」
ポンポンと頭を撫でながら、五条は明るい声を出す。
だが、その目隠しの奥の蒼い瞳には、いつも見えていたはずの「先」が闇雲に隠れていた。