第4章 繋がり
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道場の壁際に正座したまま、俺は呼吸の仕方すら忘れて固まっていた。
五条の大きな手が香久夜の体表を静かになぞり、首筋を撫でさする。それを受け入れる香久夜の熱を帯びた瞳と、吐息。
二人の間に漂うのは、あまりにも完璧で、濃密で、他人の介入を一切許さない静寂だった。
(……踏み込めない)
物理的には、ほんの数歩の距離だ。手を伸ばせば届くはずの場所にいる。
なのに、二人の周囲には目に見えない分厚い透明な壁が存在しているようだった。そこに流れているのは、世界の誰にも真似できない「六眼」と、その眼だけに全てを暴かれ、救われている香久夜の、あまりにも特別な世界の空気。
「……綺麗だ。僕の眼には、君の呪力が誰よりも、世界で一番美しく見えてる」
五条の囁きに、香久夜が頬を染めたのを驚いた顔で誤魔化そうとしていた。その光景を見つめながら、胸の奥が冷たく締め付けられていく。
(嫉妬? ……そんな生ぬるいもんじゃない)
勝てるわけがないのだ。
あの「最強」の男に。世界を俯瞰する「六眼」に。あいつの本当の美しさを見抜き、肯定して見せた五条悟という存在に、俺が敵うはずなんてない。張り合うことすらおこがましいほどの圧倒的な能力差と格の違い。
朝の情けない自責の念や罪悪感にかこつけて、俺がうだうだとあいつから目を逸らしていた間に。
あいつは俺の手の届かない、はるか高みの場所へ行ってしまった。
二人の描く完璧な円の外側に、ポツンと一人だけ取り残されたような圧倒的な孤立感。
どれだけ手を伸ばしても、どれだけあいつを想っても、あの「六眼」が作り出す絶対的な世界には指一本触れることすらできない。
(俺は……何をしてたんだ……)
握りしめた膝の上の拳が、虚しく震える。
もう、見たくないのに、二人の間に生じた静かで残酷な断絶をただ見つめ続けることしかできなかった。
俺は絶望的な無力感を噛み締めていた。