第2章 柱
薬屋を見つけてめぼしい物を手に入れたらすぐに宿屋に戻るつもりだった。
だが一歩宿を出て街へ繰り出すと、食事処や甘味処だけでなく女子心をくすぐる可愛らしい雑貨屋や呉服屋、髪飾りを売っている露店、金魚売りなどが所狭しと並んでおり、様々な店に興味を惹かれて時間を忘れて見て回ってしまった。
そして今はついさっき見付けた金魚売りに興味の全てを持って行かれ、小さな盥に入れられた金魚を眺めている。
「可愛いなぁ……でもずっとお世話してあげられる時間が取れるか分からないからお迎えは出来ないよね」
一人ブツブツ呟く少女に店主は苦笑いを零すだけで、冷やかすなと怒ることもなく見守ってくれていた。
しかしそんな優しい店主の表情が店の入口を見て恐怖の表情へと変化してしまう。
それに気付かないまま風音が金魚を眺めていると、突然後ろから強い力で手を引かれた。
「え?」
「え?……じゃねェだろォ!どれだけ探し回ったと思ってんだァ?!」
なんと風音の手を引いたのは実弥だった。
額に血管が浮き上がっているので笑顔のはずなのに、全く笑っているように映らないから不思議である。
「すみません!こんなに大きな街を見て回るのが初めてで……色んなものに興味が惹かれて……その……ごめんなさい」
先ほどまでキラキラと目を輝かせて金魚を眺めていた風音の表情はシュンとなってしまい、怒鳴りつけた実弥の罪悪感を僅かに刺激した。
「はァァ……あんま心配かけんなァ。長くなりそうなら宿に言伝を頼むなり手紙置いとくなりしとけ。で、金魚欲しいのかァ?」
真っ当な実弥の指摘に頷き返し、数秒前まで嬉々として眺めていた金魚に視線を戻す。
「可愛いなって思ってたけど、ちゃんとお世話出来るか分からないから目に焼き付けてました。もう大丈夫です、宿に戻りましょう」
本当に目に焼き付けていただけなのだろう。
風音は長時間金魚を眺めさせてくれていた心優しい店主に深く頭を下げると、実弥に笑顔を向けて店の外へ出て行った。
「金魚ねェ……なぁ、この店はいつまで開いてんだァ?」
「秋の終わりくらいかなぁ。でも毎年来てるから、今年が無理なら来年に見に来てよ。その時はおまけするからさ」