第8章 嘘の裏側/緋色シリーズ
腕の中の叶音は胸にピタリとくっついたまた首を横に振り、静かに肩を震わす
「何もないわけないだろ?」
「……」
反応がないということは何かあったということ
こういう時にうんと言えず、自分の中にしまいこんでどうしようもなくなるところ、変わらないな…
「叶音ー?」
「……」
背中を摩って落ち着かせようとした
今日はもう話してもらえないだろうか
でもそのままではきっと苦しいはずだし、朝起きた時の叶音の気まずそうな顔は想像出来る
少しでもいいから吐き出してやる手立てはないだろうか…
「これは独り言なんだが…」
「……」
子どもをあやす様に一定のテンポで背中をトントンしながら話をしてみる
「帰ってきたら驚いたよ…靴は揃えてないし、買った物はそのまま……洗濯物も回したままで…風呂場も使ってそのまま……おまけに当の本人は既に寝ているときた…」
「……」
「叶音は本当に子どもになっちゃったのかな?」
「っ…ごめん…」
腕の間から申し訳なさそうに顔を出してくれた
「フッ…やっと出てきた…」
作戦は成功といったところだろうか
ようやく見せた叶音の顔を濡らす涙を親指で拭ってやり、おでこにキスをする
「ちゃんとやってくる…」
「僕がだいだいやっといたから必要ないよ」
話を逸らそうとしているのか、起き上がろうとするのを引き戻し、もう一度腕の中にしまった
「ごめん…」
「謝ってもらう為にしたんじゃないさ」
「ありがと…」
それから暫くの間、背中や頭を撫で、落ち着くのを待った
僕の胸にスリ寄ってみたり、少し離れてみたり、本当に子どもになってしまったんじゃないかって思えた
「そろそろ、何があったか聞かせてくれるかい?」
「…っ…て…」
小さな声が聞こえたが、上手く聞こえない
ピタリとくっつく叶音の顔を少し離し顔を覗いた
「もう1回教えて?」
「…何も、できないからっ…悔しくって…」
何もできないだけでこんなになるのはおかしい
別の理由があるはずだが、順番に聞いて吐き出させてやるしかないな…
「何ができなかったんだ?」
「…変声機、探ろうとして…失敗した…」
変声機ということは…沖矢昴と接触したということか?
沖矢昴…一体叶音に何をした…