第9章 婚約者は誰?
ともあれあたしは鏡の前に立たされて、まるで奥様の着せ替え人形だ。
いろんな布を当てられて「どれが好き?」って尋ねられる。と同時に、店主に「もっといいもの出してきて」って仰る。あたしは悟くんに”安い生地でいいから”って目で合図するんだけど、完無視してる。携帯ゲームしてる!
「悟くん!」
「ん?」
奥様が合わせられた布を見て「いいんじゃねーの?」って鏡越しにあたしに言ってくる。
違うから! 似合ってるか見てってことじゃないから!
結局、悟くんが「いいんじゃねーの」って言った正絹の生地を選んで、オーダーメイドで着物を仕立てることになった。
仕立ててもらう事になったのは、色とりどりの花を中心に水や雲をあしらった振袖。黒地によく映える。金箔がところどころに入っていて豪華でありながらも上品。
これまで奥様にお借りしていたお着物よりも大人っぽい。金の糸で刺繍が施された白銀の帯を店主に勧められる。純金の糸だそうだ。もうここまでくると、説明も右から左で頭がくらくらする。いったいおいくら? ハウマッチ?
帯締めも帯留めも細工がひとつひとつ丁寧だ……呉服屋さんが電卓を叩くたびにあたしは冷や汗もんで悟くんの顔を見るけど、問題ないって顔。
奥様は「あれも、これも足して」って髪飾りやら草履やら装飾小物をプラスする。
この状況は異常だ。ざっと見積もっても数百万だと思う。あたしが恐縮してると「私じゃなく悟が払うんだから気を病まなくていいのよ」って奥様が微笑まれる。
悟くんを見ると「好きなの買ってやるって言っただろ? もっと楽しい顔しろよ」って余裕だ。前から思ってたけど似たもん親子だ。