第12章 君への思い
男性が離れていったあと、煉獄さんは「中彩はもう買い物の用はないのか?」と何事も無かったかのように話しかけてきた。私は「大丈夫です」と返事をする。すると、そのまま「では帰るとしよう」と煉獄さんは歩き出す。
いや、ちょっと待って。
私は考えるよりも先に歩き出す煉獄さんの服の裾を指先で掴んでいた。
「煉獄さん」
「む?」
私の様子に煉獄さんは振り返る。何か用か?というように平然とした表情に私は一瞬戸惑ってしまう。
「さっきの、言葉の意味なんですか?」
「言葉?とは?」
煉獄さんの表情からは何も読み取れない。私の言葉にただ首を傾げている。もしかして、あんまり深い意味はなかったのかな。助けるためだけのちょっとしたジョークだったのかな、気にしてるの、私だけなのかな。色々な思いが後から押し寄せる。だが私は自分の言葉の続きを止めることが出来なかった。
「『彼氏ではないが、後日彼女には自分の気持ちを伝えるつもりだ』って言ったじゃないですか。」
そう言うと、煉獄さんは自分の口を手で覆って固まった。
「…言った。」
そしてみるみるうちに顔が赤くなる。
え、なになになになに
私はその反応を見て伝染したように赤くなる。顔が熱い。もし違ったら、もし違ったら恥ずかしいけど、それってそういう事だったりする?もしかしてそういう事だったりする?
「え、煉獄さん、煉獄さんの気持ちって…?」
「中彩!」
「えっ」
「家に帰ろう!」
「え、あ、はい!」
そう言えばここはデパートの売り場の廊下だ。こんなところで立ち話していては邪魔になってしまう。私は自分が思ったよりも平静を失っていることに気づいて恥ずかしくなった。煉獄さんは頷くと歩き出す。その歩幅が少し広くて、私は小走りに彼を追いかけた。いつも歩く時、私のスピードに合わせてくれてたんだとその時わかった。顔が、熱い。
煉獄さんとは家に帰るまで一言も話をしなかった。煉獄さんの表情が気になって、何度か電車の中で目の前のガラスの反射越しに隣へ視線を移したけど、煉獄さんは腕を組んだまま俯いていて、よく見えなかった。一生懸命煉獄さんの表情を読み取ろうとする自身に気付いて、落ち着きを忘れる自分が恥ずかしくなり、煉獄さんを見ることが出来なくなった。
帰り道のたった10分程度の電車の時間が、とても長く感じた。
