第1章 一夜目.5時限目の空
環はニカっと笑って、一織にそれを差し出す。一織にはその白い紙が、黄金色に光って見えた。目を輝かせてふらふらと手を伸ばしたのだが、指が届く寸前でさっと上へ遠ざけられてしまう。
「お、王様プリン……10、個?」
なぜ疑問形なのだ。一丁前に、相手から最大利益を絞り上げようとしている。意外な狡猾さを見せる環に、一織はじとっと濡れた視線を送った。
「や、やっぱ、10個はやり過ぎたよな!えっとー…値切る?」
「まさか。喜んで支払いますよ?彼女の隣は、そんなに安くない」
「おっしゃ!じゃあ、やっぱ20個にしてもいい?」
「後出しは駄目でしょう」
一織は含み笑いを見せながら、手にしていたクジを手渡した。
クラスメイト達は、手早くテーブルを新しい場所に移動させる。晴れやかな者。落胆する者。その顔色は様々だったが、一織は勿論前者であった。
あぁ。彼女の登校が待ち遠しい。
彼女が座るいつもの席にはクラスメイトが座っていて、代わりに一織の隣は空席で。勘の良い彼女なら、すぐ席替えをした事実に辿り着くだろう。そして、二人が隣同士になれたのだと気が付くだろう。その時、エリは一体どんな顔をして、席へ座るのだろうか。
一織は、隣の空席を眺めながらそんな妄想をしてしまうのであった。
楽しみに何かを待つ時間は、ひどく長いものである。しかしそれでも、その時はやって来る。
時間割は歴史。5時限目。天気は快晴。
一織は、この時間が好きだった。
授業中だというのに窓の外を見つめ、天気のことを考えたりグラウンドを歩く彼女の姿を想像するのが。
エリが廊下を渡る足音が好きだ。彼女のローファーがリノリウムの床を叩く音は、何故か他の人のそれとは異なる気がする。
しかしその日は、いつもと違った。エリがグラウンドを突っ切る姿を見ることも、廊下で鳴る靴音が聞こえることもなかったのだ。