第49章 .☆.。.:..期待:*・°☆.
トントントン
と、
小気味のいい音が台所に響く。
音柱様が言っていた『見返り』とやらが
コレだ。
…なんでこんな事も…
そう思った私は
まな板の上の大根目掛け
力任せに包丁を振り下ろした。
でもそれが大根、
ないし、まな板に到達するより早く
掴まれて阻まれる。
「…料理してんだよな?」
チ。
「あ″ぁ⁉︎舌打ちしたなぁ?今なぁ⁉︎」
「……しておりませんが、」
「あーあはいはい」
諦めたようにため息をつき、
「何作ってんの」
「晩ご飯です」
「………」
「………」
「なぁ俺のこと嫌いか」
「……」
「なんか言えよ」
「……わかんない」
「そっか。ならいいか」
いいの?
へんな人だなぁ…
手首を掴んでいた大きな手がするっと滑り
包丁を持つ私の手を包み込んで
また規則的な旋律を刻み始める。
私の頭の上から手元を覗き込み
「料理、嫌いなのか?」
大根を綺麗な拍子切りにして行く。
「……」
私の手を巻き込んでいるのはなぜだろう。
音柱様ひとりでやればいいのに。
後ろから抱きしめられてるみたいで
すごく落ち着かない。
「1度だけ見たことあるけど
お前の弁当、
美味そうだったけどな」
「……」
「嫌なことがあればちゃんと言えよ。
無理やりさせるような事はしねぇから」
溜めておいた水の中に
切った大根を移しながら
音柱様はいかにも彼らしい事を言った。
…そう。
多分、これが本来の音柱様。
人に無理強いはしない。
任務となれば別だろうけど
それ以外では、基本
個々の意思を尊重してくれる。
…それなのにどうして、
「どうして私を、
無理やり連れ戻したりしたんですか?」
そこだけが引っ掛かる。
私ははっきりと、戻りませんと言ったはずだ。
それなのにこの人は
私をここまで連れてきた。
音柱邸まで。
何かあるのだ。
私にだって、ちょっと思い当たる節はある。
それを確かめるのは怖いけれど。