第44章 .☆.。.:.夏色.。.:*・°☆.
「俺じゃなく睦の事が好きなのかもな」
「そうなら、嬉しいなぁ…」
そう決まったわけでもないのに、
いつまでも私の顔の前で
ふわふわ漂っているその子が
余計に可愛く見えてくる。
飽きもせず眺めていると、
「…なぁ、」
「ん…?」
腰を折り、
いつのまにか
私の顔の横にいた彼に声をかけられた。
素直に顔を向けるといつになく真剣な顔。
…近っ
「俺も、睦のこと好きなんだけど…」
「は、い…?」
「お前が余所見してると淋しいんだけどさ、
俺とは、遊んでくれねぇの…?」
「は……」
なんて、
…なんて事を言うのだろう。
一瞬で頭が真っ白になった。
じぃっと凝視めてくる彼が
何を考えているのかがわからなくて
私は、水槽と彼との隙間からスルリと抜け出し
円柱の水槽へと移動する。
確かにここには他にお客さんがいない。
いつもそうなのか
閉館間近だからなのか。
しかもここの人もいない。
多分奥の事務所に引っ込んでいるのだ。
だってここは多分
研究所みたいな所で、
海の生態系とか水質調査とか
そっちをメインにやっているついでに、
魚の展示をしているに違いない。
誰かこの場にいてくれないと
あの人やりたい放題になりそうだ。
ここはちゃんと逃げないと。
水槽を回り込んで、
彼の様子をチラリと窺うと
さっきのハコフグと
まだ遊んでいるようだ。
ホッと胸を撫で下ろし
改めて水槽の中に目を移す。
小さいのが群れを成して
ちょろちょろと動き回っていた。
これは、幼魚では…?
そう思ってプレートを確認すると
そこには『鰯の幼魚』と書かれていて……
それって、
「…シラスじゃね?」
頭上から再度降ってきた声に、
さっきまで向こうにいたはずなのに
移動速度の速さに驚くやら呆れるやら…
「そうみたいだね…」
サーっと泳いでは
くるっと急旋回する。
群れなのに1匹もぶれることなく
揃って泳ぐ姿は見事だった。
「なぁ……」
…2人、水槽に目をやったまま
彼が呼びかけてくる。
何となく、何を言われるかがわかってしまった。