第93章 選んだのは、こういう道だろ
自分のゾーンで肉を育てていると、薄笑いの巳波が声を掛けて来た。
「TRIGGERの皆さんとは、きちんとお別れをされたのですか?どんな言葉で、どんな表情で、あなたを送り出したのでしょう。ぜひその辺りのお話を聞かせてもらえませんか?」
『笑顔で、行ってらっしゃいと。あと、べつに お別れはしていません。縁が切れたわけではないので。
あ、それもう焼けてます。早く食べないと固くなりますよ』
「予想していたよりも面白みのないお話を、どうもありがとうございます」
彼は言って、自分の取り皿に肉を入れた。私はというと、どんどん汚れていく網を見つめていた。付着したタレが焦げ、黒い煙となってもうもうと上へと登っていく。
まだただの一口も食を進めていない虎於は、了に問い掛ける。
「まだ肝心なところを聞いていなかったな。
こいつは、具体的にどう俺達と関わっていくんだ?プロデュースか?作曲か?それとも振り付けか?」
「うーーん。ŹOOĻのプロデュースは僕がやるし、作曲は巳波で、振り付け師ももういるしなぁ。とりあえず、マネージャーくらいにしとく?実は、あんまり考えてなかったんだよねー。
あ、そういえば僕の秘書になりたいって言ってたっけ?」
秘書をやっても良いとは言ったが、やりたいとは言っていない。この男の秘書を務めることを考えると、それだけで頭痛がしてくる。
「たまになら使ってあげようかな?君、無駄に見た目は良いからさぁ。連れて歩く分には楽しめそうだ!
後はまぁ…やって欲しいことが出来たら、その都度お願いするよ」
お願いではなく、命令だろう。
了がほくそ笑むのを見て、私は牛タンを噛み締めた。どんな最悪の状況でも美味しいと感じられる この部位は、やはり偉大だ。