第7章 トラ男とパン女の攻防戦
欲望の残滓を吐き出したところで、すっきり心が凪ぐのかと言われれば、そうでもない。
なにせ、目の前には美味しく熟した獲物が安らかな寝息を立てて眠っているのだ。
気を抜けば襲い掛かってしまいそうで、ローは寝室を出てバスルームへと向かった。
泊まってもよいと許可は得ていたので、図々しくシャワーを浴びさせてもらおう。
脱衣所で服を脱ぎ、まだ床が濡れたままのバスルームへ入った。
さすがに着替えを持ってきてはいないから、シャワーを浴びたあとは同じ服を着なければならない。
泊まるとわかっていれば、いろいろと準備ができたものを。
今日一日いたるところへ足を向けたローの身体は清潔とは言い難く、全身を清めたくてシャンプーを探した。
目的のものはすぐに見つかる。
見たこともないメーカーのシャンプーは“大容量!お買い得!”というシールが付いたままで、業務用と見紛う大きさだった。
女子なんだから、シャンプーくらいは気を遣え。
ムギらしさに若干呆れつつ、特にこれと言ってシャンプーに拘りのないローは、大きすぎるボトルをプッシュした。
琥珀色のシャンプーを髪につけて泡立てた瞬間、鼻腔にムギの香りが飛び込んでくる。
当然だ、ムギはこれと同じシャンプーを使っているのだから。
甘すぎない匂いは、普段ムギの髪から漂う香り。
彼女の香りを思い出すと同時に、いやらしく喘ぐムギの姿がフラッシュバックした。
「……ッ」
正直すぎる身体が熱を持ち、今しがた欲望を吐き出したばかりの雄がぐんと頭をもたげた。
己の余裕のなさには苦笑するしかなく、熱を鎮める方法はひとつしか思い浮かばない。
結局ローは、恋人の媚態を思い起こしながら二度目の自慰に耽り、三度目がないように冷水のシャワーを浴びた。
この情けない出来事は、墓場まで持っていこうと決めて。