第30章 映る
「……どうした?」
「ペトラで思い出しました」
「なんだ」
「ペトラが知りたがってたんですけど…。あっでも、私も気になっているんですが…。クロルバでナリスさんと話しこんでいたでしょう?」
「……あぁ」
「何を話してたの?」
ペトラペトラと連発していたら、ペトラにいつか兵長に訊いておいてと頼まれたことを思い出したのだ。
「あれは…」
リヴァイは記憶をたどる。
クロルバの店のバーカウンターでミケと杯を傾けていると、見知った長髪の男がやってきた。
「リヴァイ兵士長…」
初対面のときとは比べ物にならない落ち着いた表情を浮かべている。
マリウスの兄ナリスはリヴァイの隣のカウンターチェアに腰を下ろすと、運ばれてきた琥珀色の強い酒のグラスを見つめて話し始めた。
「もう一度会いたいと思っていた。クロルバに来ていると知って、慌てて仕事を切り上げてきた」
“それがどうした” といった顔でリヴァイは黙って聞いている。
「兵士長には感謝しているんだ」
「……礼を言われる覚えはねぇが」
「あの日のことを、あれからずっと考えていた。“弟が大事なら、弟の生き方を全肯定してみろ” と言われたことを。私は兵士長の言葉のおかげで、マリウスの死を本当の意味で受け入れることができたんだ」
「……そうか」
「あぁ。呪縛から解放されたら、余裕もできてね。それまで目にするのも嫌だったマリウスの兵服に、毎朝話しかけている。兵士長にあのとき出会っていなければ、今も私は苦しみから抜け出すことができずにいたに違いない。ありがとう」
ナリスの声はあの日クロルバの路上で聞いたものとは違って澄んでいる。
正面を向いて聞いていたリヴァイは、隣のナリスの顔を見る。そこには雨上がりの空のように晴れ晴れとした一人の男の顔があった。
リヴァイからナリスとのやり取りの内容を教えてもらったマヤは、ディーン商会の三階にまつられていたマリウスの兵服を思い出した。
「……そうですか…。良かった…、マリウスもナリスさんと話せて喜んでると思います」
「そうだな」
「私もあのときの兵長の言葉には感動しました。心から大切な人のことは、すべてを受け入れて信じたい。そう強く思ったし、絶対そうするんだって決めたの…」
そうささやいて、マヤはリヴァイを見上げた。