ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
「ユウコッ、…大、丈夫?」
『……んっ』
「…ユウコ、顔を上げなさい」
その声に私はゆっくりとパパを見る。
『っ…は…ぁ』
「ほぅ…潤んだ瞳も紅く染まる頬も、実に情欲的だ…。待ち望んだアッシュのキスは腰が砕ける程に気持ちが良かったのかい?」
『……っ、』
興奮した目で舐めるように見られ、恥ずかしさに俯く。
すると、私の後頭部にアスランの手が回って胸に顔を押し付けられた。
「…ッフフ、よっぽど独占欲が強いらしいな…お前の思惑通り、私には背中越しに官能的な音が聞こえるだけで舌が絡み合う様は全く見えなかったよ。」
「今度は音が聞けて良かったね、“パパ”」
アスランはパパに背を向けたままそう言う。
「アッシュ、私は貴様のように反抗的な子は嫌いじゃないよ。それは何故だと思う?」
「…さあ」
「強い反抗の意志を持つその目が、私に屈服する瞬間を見ることが出来るからさ。まあいい、もうすぐ分かることだ。では、私はそろそろ戻るよ。…ユウコ、」
パパが私の名前を呼ぶのを聞いた瞬間、アスランの手に力が入る。しかしそれはすぐに緩み、ゆっくり滑り落ちた。
アスランの目を見ると“行け”と言うようにチラッと横に目線が動いた。まだ震える足で檻の前まで歩き、ギュッと柵を掴む。
『……はい、』
「おやすみ、愛しているよ。」
『っ!』
おやすみ、愛してる…
ケープコッドにいた頃、パパがおやすみの挨拶に毎日言ってくれていた言葉だった。
『…おやすみなさいパパ…私も愛してる』
私が無意識にそう口にすると、パパは満足そうな笑顔を向けてシャッターを出ていった。
「……ユウコ」
『っ……なに?』
「大丈夫?」
『…うん』
私たちはベッドに横になった。倉庫の高い天井は、檻の網目で縞々に見える。ベッドから見える景色は昨日とは全く違うものになってしまった。
…ただひとつ変わらないのは隣にアスランがいること。
絶望の中で、それだけが私の“光”だった。
『……よかった』
「うん?」
『アスランが隣にいるのが嬉しいの…』
それを聞いたアスランは、体ごと私に向いた。
昨日までのベッドより大きいせいか、私たちには人ひとり分の距離があった。
すぐ横をポンポンと叩かれ、私は胸に擦り寄る。