ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
マービンのところからここへきてまだ1日も経っていないというのに、既に心が忙しく動いて疲れてしまった。
アスランとここまで衝突したのは初めてのことで、今だに少しショックの残る私は彼のシャツを離せないでいた。
泣きすぎて喉がチリっと小さく痛む。
『…っ…ケホ、』
「泣き虫ユウコは喉がおかしくなっちゃったの?」
『泣き虫じゃないもん…』
「えぇ?そうかな?声が少し枯れてるよ、あんなに大きな声で泣くから」
『それは!…アスランのせい』
「うん…ごめんね?」
そう言って、私の喉元にキスをした。
「ユウコ、ちょっとまってて?」
私の手を優しくシャツから外すと、立ち上がり柵の前に行き見張りの男に声を掛けた。
「あの、なにか飲み物をもらえない?僕たち喉が乾いちゃって」
「飲み物ってパパ御用達の水がペットボトルで用意されてたよな。どこだったっけか?」
「ああ、たしかこっちに…これだこれだ。ほらよ」
男は山のイラストの書かれた箱の中からペットボトル2本を取り、柵の間から通した。
「ありがとう」
『ありがとう』
すると男たちは驚いたように目を見合わせた。
「…え?なに?」
「いや、礼なんてよ…驚いちまって」
「…あっ、」
アスランは男たちから顔を逸らした。
「お前らが来る前は、クラブのガキの様子見てたんだ。会話なんかほとんど出来ねえし、何してやっても礼なんて言われたことねえからな」
「会話が出来ないってなんで?」
「ヤク漬けにされちまったら話せねえだろ」
「おい、余計なこと話しすぎるなよ」
「…あぁ、そうだったな」
男たちはまた椅子に戻って行った。
クラブってなんの話だろう。
アスランから手渡されたペットボトルの蓋をカチッと開け水を飲みながら考えたがわからなかった。
そういえば、路地裏で暮らしていた時たまに目に入る明らかに挙動のおかしい人は、ヤクがどうとか言われていたっけ…。
それにしても、あの人たちにありがとうなんて…
つい口にした言葉に自分でショックを受けてしまった。
…さっきのこと忘れたわけじゃないのに。