第114章 安室1※
ゆっくりと、足取りが重そうな彼女の歩幅に合わせて歩きながら、ポケットの中のスマホと彼女に意識を合わせて。
何も話さない彼女に、今は無理に話し掛けるべきではないか、と彼女の口から言葉が出てくるのを待った。
「・・・あの」
気まずそうに声を掛けてきた彼女に目をやりながら、ああ、話題を探しているのだなと察し足を止めた。
「えっと・・・その・・・」
無理に探さなくても構わないのに。
右往左往する視線と共に、顔は段々と俯いていって。
・・・こういう時でも、彼女は頑張るということをするのだなと思うと、どこか彼女が兄と慕う冬真の姿が重なった。
その瞬間、くすくすと漏れ出た笑いは自然なものだったのか、与えてしまった彼女への恐怖を取り払いたいと思ってのものだったのか。
自分では答えを見つけられなかったが。
「・・・すみません。挙動不審なひなたさんが可愛くて、つい」
とりあえず、そういう事にした。
実際、言葉に間違いは無かったから。
けれど彼女は少し不服そうな表情を浮かべながら、僕を上目で見つめてきて。
「恥ずかしくないんですか・・・?」
「何がです?」
突然、そんな事を尋ねてきた。
「その・・・そういうこと、言うの・・・」
・・・恥ずかしい、か。
そういえば、いつしかそんな事を思うことすら忘れている。
思っていることは口にしなければ、いつ言えなくなってしまうか分からない。
僕はその経験を何度もしてきたから。
「別にそうは思いませんよ。思っていることを言っているだけですから」
彼女だって例外では無い。
いつ、彼女の前から僕が姿を消すか分からない。
それまでに伝えたいことは伝え、してあげられることはしてあげたい。
・・・とても身勝手な願いだとは思うが。
「透さんの弱点ってないんですか・・・」
そんな事を思っていると、彼女は少し口を尖らせながら呟くように、そう尋ねてきて。
あまり直接人に尋ねることではないなと思いながらも、一応脳内で答えを探してみた。