【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
何だか妙な感じだ。
白布などは若利に水筒を渡したそうにソワソワとしているのに、自分がいるから遠慮しているのだろうか。
八重が戸惑っていることにまったく気づかない若利は、変わらぬ口調で道場の外の井戸を指さした。
「外に出ないか。ここにいるのも飽きただろう」
「え・・・?」
赤葦からはここに居ろと言われているが、若利の誘いを断るわけにもいかない。
八重が首を縦に振ると若利は表情をほころばせ、面と竹刀を白布に手渡してから、八重を井戸のある裏庭へと連れだした。
二人が表に出た途端、見物人の中から黄色い声が上がる。
“牛島家の若様”と聞くと、若い娘たちはとたんに色めき立つ。
家柄は申し分なし、さらに文武両道の美丈夫とくれば、その人気は歌舞伎役者の市川團十郎をも凌ぐかもしれない。
その若利が見慣れない令嬢と並んで道場から出てきたのだ、見物に集まっていた娘たちは一斉に悲鳴を上げた。
「若様と一緒に居るのはだれ?!」
「女子学習院では見かけない顔よ・・・若様のお知り合いかしら」
いずれは侯爵の称号を受け継ぐ若利も、もう十八。
許嫁がいてもおかしくはない年頃だが、浮いた話がこれまで一度も無く、女性と一緒に歩いているというだけで娘たちの間では大事件だった。
「あの、若利様・・・」
羨望や嫉妬が混じった熱視線にまったく気づかないのは若利ばかり。
さらに言えば、八重が居心地悪そうにしていることにも気づいておらず、井戸から水を汲んで無造作に顔を洗っている。
「どうして私をここに?」
井戸に来るだけならば、何も自分まで連れてくる必要はなかっただろう。
それになんだか周囲にものすごく誤解されているような気がする。
すると若利は髪から雫を落としながら八重に目を向け、ふと微笑んだ。
「この間、気が付いた」
そう言って指さした先にあったもの、それは───
「ぜひお前に見せたいと思った」
冬の寒さにも負けず鮮やかな赤い花を咲かせる、寒椿だった。