第3章 木の葉に馬鹿を突っ込めば
林檎を見に来ただけなのに。
ヒナタは見開いた目を瞬かせる事も忘れてぐったり波平にもたれ掛かる牡蠣殻を眺めた。
忍びという立場上、人が意識を失う姿はよく目にする。時には自ら誰かを倒したり、逆に誰かに倒される事もある。
けれどだからと言ってそうした状況に無感覚になれる訳ではない。
「…さっきまで普通に話してたのに…」
「胡乱だな」
ネジが目を眇めて独り言するように答える。
「…言うたえ?あれはちくと体の質が違うのよ」
牡蠣殻を診る波平を眺めていた伊草が、ネジとヒナタに顔を向けた。
「それなら知らないでもない」
苦々しげに言うネジにヒナタは驚いた。そう言えばネジは牡蠣殻と既に知り合っている風だった。
「だがそれはまた違うのではないか?アレは質に関わりないように見える。…それとも何か。あの餅は涎も止まらない質だとでも言うのか。自分で言い出しておいて何だか、そんな馬鹿げた世迷い言は受け付けないぞ。……自分で言い出しただけに気が咎めるな…。どうも俺は育ちが良くて困る…」
自分の発言に振り回されて迷走し始めたネジの、しかし牡蠣殻の事情を知ったような様子に伊草が薄く笑った。
「磯辺とは既知かの?」
「違うとも言えないが、そうだとも言えない」
そう言って迷走を止めたネジは、口を引き結んでヒナタの背中に手を掛けた。
「帰るぞ。雑炊に釣られてうっかり長居し過ぎた」
「…そんなにシカマルくんちの雑炊が好きなの…?」
ヒナタの問いにネジの眉が上がり、シカクが噴き出してヨシノに睨み付けられる。
「アンタ?」
「いや、何だ、お茶が喉に詰ま…」
「る訳ないよ、馬鹿な事言ってんじゃない」
「…あー、まあ、その、お前の飯は旨いよな。これは本当だ」
「当たり前だろ。誰の為に作ってると思ってるんだい」
「ああ、いつもありがとうな」
「…人前でデレんなよ。息子の俺がいたたまれねえ」
奈良家のやり取りを尻目に、ネジはヒナタの背中に掛けた手を前に押して帰りを促した。押し出されながら、ヒナタが眉尻を下げて尚も言う。
「兄さんがそんなに雑炊好きなんて、知らなかった…」
「違うとは言わないがそればかりじゃない」
「…そればっかりじゃなくても違う訳でもないんだ…」
「……いや。やっぱりそればかりじゃないはなしの方向で」