第1章 前編 時の彼女と死の外科医
「今朝の答えは、やはりお断りします」
静かに発したユーリの言葉は、部屋に響き渡った。
「話していなかったのですが、私には故郷に婚約者がいます。今回の旅が終れば私は故郷に帰るつもりです」
そんなの嘘だ。今咄嗟に作った作り話だ。でもこうするしかなかった。
静かに聞いているローが不気味だったが、顔を下向けているユーリにはその表情が見えなかった。
「私は彼を愛しています。だから、私はあなたのものにはならない」
最後までそう言い切ると、再び部屋は沈黙に支配された。
ユーリは早くなる鼓動を抑えると、恐る恐るローを見上げた。
「…っ」
ローは笑っていた。ただの笑みではなく、限りなく怒りに近い笑みだった。
「言いたいことはそれだけか?」
ローは話は終わったとばかりにユーリの肩を痛いほど掴むと、ベットに引き倒した。
「…っ、私はあなたが嫌いです!」
ユーリは掴まれた肩の痛みに顔を歪ませるが、ローの瞳をまっすぐ見つめてはっきりと伝えた。
「…黙れ」
ユーリのはっきりとした言葉に、ローの心は僅かに揺れた。
例えユーリに断られても関係ないと思っていたが、まさかここまではっきりと断られるとは思っていなかったのだ。
少なくとも今までユーリ見てきたローは、ユーリの中に嫌いと言う感情はないと分かっていた。
だから最初は嘘かと思っていたが、目を逸らさずはっきりと伝えるユーリに、ローは彼女の本心が分からなくなった。
ローは苛立ちを隠しもせずユーリに口づけると、ユーリは目を閉じ一切の抵抗をしなかった。
それが本当にローを拒絶しているようで、益々ローの心は荒れた。
そしてその日は、何時かのように荒々しくユーリを抱いてしまったのだ。