第5章 purple
残業の亮介さんを残して
私は会社を飛び出した。
どこに向かって走ってるのか
自分でもわからない。
ヒールで走るその振動のせいで
右耳にあてる携帯電話が
フィットしない。
『もしも「松本くん!?」
相手が電話に出た瞬間に
声を発した。
『…ふふ、うん、どしたの』
「い、イマドコ」
『なんすかそのカタコト』
ははっと、
すぐ耳元で聞こえる彼の笑い声。
「は、走ってたらっ、息がっ」
『何急いでるの』
だって
そんなの
「まままままっ、松本くんに会いたくて!」
『………』
「は、走ってるからっ、そろそろ
場所をっ教えてほしい…っ」
なんで走ってるかは
わからない。
けど今は走らずにはいられない
独身女!
あなたに話したいことがあるから
息を切らす私に
『うち、来る?』と言う彼。
でも…うち、の場所がわからない。
私の家には来る松本くん。
彼の家には言ったことがない。
少し頭で考えるために
何も言えないでいると
『走りたいのはわかったけど
タクシー拾える?』と笑われた。