第146章 あなたにもう一度後日談(4)前編
迎えた朝。
木刀で素振りをする小さな後ろ姿を見守り、型を確認しうっすら汗の滲んだ頭をポンと叩く。
「やはり親子だな。家康の行儀の良い太刀筋に似ておる」
「本当ですか!?早く父上みたいになりたい!!」
「ほぉ……あんな捻くれ者になりたいのか?」
「父上、稽古の時は厳しいけど……普段は優しい!母上と時姫にはもっと、優しいが……」
(……あの馬鹿も、後継者にはそれなりの教育をしているようだな)
少し表情を曇らせ俯く姿は、家康の幼き頃の面影があった。俺は背後から木刀を握る手に上から自分の手を重ねる。
「男は少々乱暴で、強引な方が良い。筋も大事だが気も必要だ」
一度自分が振りたいように、振ってみろ。俺がそう助言すると、竹千代は元気よく返事をし勇ましく刀を振るい始めた。
「一度手合わせしてやる。遠慮など要らん、本気でこい」
「はいっ!!」
久しぶりに木刀を握り一心不乱に挑んでくる姿に目を細め、最後に家康に手合わせした日を柄にもなく思い出す。
ーー……くっ、そ!
ーーお前の剣は乱れがない。それが逆に隙を生む……少しは学べ。
俺は刀に着いた血を振り落とし、鞘に納め背を向けた。しかし家康は懲りず、
ーー……も、う一度お願いします。
ーー怪我人が何をほざいておる。ささっと帰って、あの女に手当てして貰え。
わざと煽るような言葉を放ち、家康の中にある感情を揺さぶり……
ーー……っ…馬鹿にしないでくれる。はっ!!
ーー…………遅い。しかし眼は幾分ましになったな。
秘めた感情を曝け出させた。刀を押し返し、家康の耳に口を近づけ挑発。
ーーさては、余程気に入っておるな?あの女……試しに俺も一度、抱いてみるか。
ーーっ!ふざけるなっ!!
散々からかってやったら、腕を上げおって。最後に愉しませて貰った。
(あの時は気にもしなかったが……)
まさか、本気で惚れておったとはな。