第110章 あなたにもう一度第二幕(9)
(ひまり……)
心の中で、
ぽつりともう一人のひまりの名を呼ぶ。
ーー竹千代、とりあえず頑張ってみよう!
ーーでも、父上みたいに上手に出来ない。
ーーふふっ、竹千代は竹千代でしょ?強い男の子なんだから、いつか出来るよ!大丈夫!
ーー……本当か?
ーーもちろん!父上だっていっぱい練習したんだから……ね?家康?
ーー………忘れた。
ーーほら、忘れるぐらい練習したって!!
ーーすぐ、そうやって……まぁ、そうゆう事にしといてあげる。ほら、竹千代、もう一度やってみろ。
ーーうんっ!!
ーー終わったら、皆んなで休憩しようねっ!
弓術の稽古をしていた時の会話を思い出す。
(今思えば、ひまりが一番強かった気がする、な)
手を貸すのは簡単。
でもいつもひまりは辛抱強く見守っていた。それが、子供達にとって一番の愛情だったはず。
(なのに俺は……勝手に教育係なんかつけて……)
「家康さん?どうしたんですか?難しい顔して……」
俺はハッとしたように顔を上げ、なんでもないと答える。
「………子供。好きなの?」
「好きというよりも……小さい子ってキラキラしてて眩しいから」
だから、ずっと見ていたくなる。ひまりはそう言い、両親の元に駆け寄った子供がこっちに向いて手を振るのを見てクスリと笑い、同じように手を振り返す。
「沢山泣いたり、沢山笑ったり、色んなものに興味を持って、どんな夢を見つけて行くんだろうって」
ゆっくり時間をかけて、成長していく姿。それが何よりも……。
「私はきっと、好きなんだと思います」
そう微笑む姿は……俺の知っているひまりの母親の時の姿。
ーーそんなに急がなくていいのにね。
俺の腕の中で呟いた言葉が蘇る。
あの時……一体どんな気持ちで、あの話を聞いていたんだろう。
ーー…………解った。なら、せめて今だけは沢山一緒に居させて。
ただ静かに涙を流したひまり。あの時と同じように、俺の胸は呼吸も出来なくなるぐらい……苦しかった。