第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
木兎との約束の金曜日。
仕事はさほど忙しい時期ではなくなったってのに、ちょっとしたトラブルでその日は慌ただしかった。
木兎が取り付けた店との約束は20時半。
既に30分の遅刻。
木兎が時間通り行ってるから、先方を待たせてるわけじゃねぇけど…。
ノリに任せてとんでもない量の料理や酒を頼んでねぇか。
とにかく、それが気がかりだ。
帰り支度をして、まず木兎に今から向かうと電話を入れる。
それから足早に会社を出て、目的のカフェへと向かった。
大通りから路地に入り、少し歩いた先。
レンガ造りの建物が見える。
赤い屋根が印象的な外観は、この前スマホの画像で見たとおり。
"closed" の札が掛かった扉を、そっと開ける。
店内の、一番出入口に近い席。
木兎と男性店員が向い合わせで座っていた。
扉を開けたと同時に響いたドアベルの音で、二人がこちらに目を向ける。
「こんばんは。遅れてすみません」
そこへ近づくと、木兎が荷物をどかして隣の席を空ける。
「おっす、お疲れさん!なあなあ、ここの店長さんもバレーやってたんだって!今一緒に盛り上がっちゃってさぁ!」
「まさか木兎選手がお客様として来てくれるなんて。ビックリですよ!」
そこからは、木兎が店長のバレー遍歴をつらつらと教えてくれる。
俺もバレー経験者だってことを店長に話していたようで、三人で本来の話を脱線したまま10分程が経過してしまった。
「あ、すみません。黒尾さんに何もお出ししていなくて…」
木兎の前にはコーヒーが置かれている。
それに気づいた店長は、席を立つ。
「あ、お構いなく…」
断ろうとしたが、そのまま厨房の誰かにコーヒーを頼んだようだった。