第27章 小さな太陽と大きな背中
屋根の柱に手を付いて、紡ちゃんがゆっくりと立ち上がる。
「待って!」
壁に立て掛けた松葉杖に伸ばした手を、オレは咄嗟に掴んで引き寄せた。
紡ちゃんの小さな小さな体を、ギュッと抱き締める。
『及川先輩・・・離して下さい』
「・・・イヤだね」
腕の中で抵抗するようにモゾモゾ動く紡ちゃんを更に強く抱き締めると、紡ちゃんは動く事をやめた。
抱き合ったまま・・・正確には、オレが一方的に抱き締めたままだけど、どれ位の時間が過ぎたのかは分からない。
そんな中で、紡ちゃんが小さく息を吐いたのを感じて腕を少しだけ緩めた。
「あのさ、紡ちゃん?」
『・・・はい』
「関係ないとか、言うなよ・・・」
『だから、それは・・・謝ったじゃないですか』
「そうじゃなくてさ?」
・・・もっと、オレを見てよ。
オレだけを、見てよ。
たったそれだけの言葉が、出ない。
いつもの追っかけの女の子達には、応援してね!とか、オレだけを見つめててね?とか・・・貼り付けた笑顔で次々と言ってたのに。
なんで紡ちゃんには、言葉が出て来ないんだろう。
言葉の代わりに、涙が・・・出そうになる・・・
なんでこんなに、苦しくなるんだろう。
今までだって、一緒にいる時間はいくらでもあったじゃないか。
そう思った瞬間、片隅に岩ちゃんの事が掠め、尚も苦しくなる。
オレの方が岩ちゃんより先に、出会っていたのに。
オレの方が岩ちゃんより先に、紡ちゃんの事が好きになってたのに。
あの日、手を伸ばしても届かない所に行ってしまった紡ちゃんが、今、この腕の中にいる。
雨に濡れた髪を、指で掬って口付けた。
その髪を耳にかけ、指先で頬を辿る。
この時間が、いつまでもオレのものだったらいいのに。
そう、思いながら・・・何度も頬を辿った。
『雨、やみませんね・・・』
緩めた腕の中で目を合わせずに、紡ちゃんがオレの胸をそっと押し返して言った。
「そうだね・・・」
そんなの、やまなくてもいい。
雨がやんでしまったら、帰さなきゃいけないじゃないか。
『雨がまだこれくらいなら、まだ、何とか帰れそうですよね』
更にオレから体を離して、紡ちゃんは雨ばかり気にする。
「そんなに帰りたい?それとも・・・」
言葉を止めると紡ちゃんが1つ瞬きをして、オレの顔を見た。