第12章 星の王子様
返そう返そうとは思ってた。
本当にそう。
読もう読もうと思ってた。
気が向かなかっただけで。
大体、さ。
読めって言われると読みたくなくなるの、不思議と。
逆に読むなって言われたら読むかったら…それもまあ…保証の限りじゃない。
本の好みは千差万別だし、気分てものもあるじゃない?
「…は?」
月曜日、登校したら、いきなり。
「は、じゃないって。草津、死んだってよ」
「…死んだって…何で?」
驚きより悼みより好奇心を露わにしたクラスメイトの様子に目が回った。
「何で死んだの?」
「事故だよ。昨日の夜さ、コンビニ行こうとしてトラックにどかん」
「……」
こいつとはもう卒業まで口をきくまい。じっと相手の目を見て、瞼を閉じる。
「アンタ草津と仲良かったしょ?付き合ってたん?」
「……」
こいつとはもう生涯口をきいて要らん。
鞄の中、毎日うちに持って帰り、学校に持ってきながら1行も読んでいない本を思い浮かべたら、視界が霞んで頭が殴り付けられたみたいにガツンと痛んだ。
そのまま早退した。
草津は剣道部の万年補欠。三年になって一回も試合に出たことがないへなちょこ剣士だ。昼休みには売店のパンを買って図書室横のフリースペースで、本を読みながらイチゴ牛乳を飲む。毎日、私の隣で。
小学生の妹がひとりいて、お父さんは警察官、お母さんはイオンのレジ係。来春、教員免許とる為に地元の大学推薦入学が決まってた。
私は東京の短大に進学するから、まあ暇があったら遊びに来たらいいよって、金曜日に笑って話したばっかりだ。
この晩はそんな草津から先月借りたまま読んでない本に手をのせたまま、眠った。
やっぱり読めなかった。
火曜日。
学校を休んで、草津の家に行った。
お通夜をやってる。草津の名前が立て看板に書かれてる。
享年17歳。
草津は本当に死んだんだ。
鞄を胸に抱き締める。中には草津の本。
昨夜涙で汚してしまった草津の本。
笑うと糸みたいになる目。
ちっとも強くならないへなちょこ剣士。
困ると眉間に皺が寄る。
細くてぱやぱやした髪はちょっとばかり茶色がかって、ヒヨコみたい。
触ったら柔らかくて気持ちいいだろうなってずっと思ってた。
呼び鈴に手をかけて、押しかけて止めた。
草津が毎日食べてたアンパンと、借りてた本の入った袋を玄関において、走った。
