第8章 真珠の耳飾りの少女(コラソン)
音のない世界というのは、孤独だ。
そこには確かに景色があって、人間がいて、生命の営みがあるというのに、その一切の音が聞こえてこないと、まるで自分だけが世界から取り残されたような錯覚に陥る。
それはまた、逆も然り。
音とは一つの存在証明。
声があるから人は振り向き、言葉を語るから気持ちが伝わる。
ロシナンテは今、世界から隔離されていた。
「さて・・・いくか」
身長293センチ。
逞しい体躯に、父親譲りの優しい瞳と金髪。
見た目で相手に恐怖を与えるような男ではないが、彼の身体には紛れもなく“破戒の申し子”ドンキホーテ・ドフラミンゴと同じ血が流れていた。
「“お前”には何の恨みもねェが・・・ごめんな」
そう言いながら、船室の壁を軽く撫でる。
そういえば、センゴクさんに拾われて初めて海軍の船に乗った時、船酔いで吐いてしまったっけ。
だけど今は上下に大きく揺れる船体も、狭い空間にむさくるしい海兵がぎゅうぎゅう詰めにされているのも、もう慣れた。
この制服を着て、軍艦に乗ることが許されるのも、今日が最後───か。
ロシナンテは後方にある艦砲を見上げた。
本来は海賊船を攻撃するために搭載されている大砲。
これで自分の船を破壊しようとしているのだから、海兵としては正気の沙汰ではない。
「・・・・・・・・・・・・」
ロシナンテは先ほど会った見回りの海兵二人の方を振り返った。
ああ、本当に音がないというのは孤独だ・・・
彼らの視界に入りさえしなければ、どんなに大きな音を立てても自分の行動を気づかれる事はない。
海兵達の姿が完全に見えなくなっているのを確認してから、艦砲の操縦室に入った。