第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔
「この体は、杏寿郎さんのものだと刻み付けたいから」
それでも細い声は、最後まで言い切った。
気恥ずかしさは残るのか、粗末だと言った胸元は隠したまま晒そうとはしない。
横に流されていた視線が、伺うように見つめてくる。
「お願い、します」
泣いてもいないのに、濡れて光りを帯びているようにも見えた。
暗い柚霧の瞳に、目が逸らせなくなる。
まるで極上の食事を用意されているかのようだ。
これを味わわずして他のものなど、手につくはずがない。
「…わかった」
胸を隠す手を優しく握ると、口元へと運ぶ。
擬態化している人と同じ爪をした指先に口付けると、断る理由もないと杏寿郎は頷いた。
「一つだけ、いいか」
「はい」
「先も言ったが、俺は君のこととなると狭量となってしまう。…この先は、恐らく止められそうにない。それでも受け入れてくれるか?」
真剣な面持ちで告げる杏寿郎に、長い柚霧の睫毛が揺らぐ。
ぴくりと僅かに肌を震わせた後、なんでもないことのように微笑んだ。
「杏寿郎さんの、お好きなように」
ぴちゃりと猫がミルクを舐めるような水音が響く。
「──ふ…は、ぁ」
合間に混じるは、艶めく吐息。
「んっ…杏、寿郎、さ…」
時折切なくも感じる声で名を呼べば、肌を這う舌先が応えるように愛撫を強める。
びり、と微かな痛みさえ伴うような吸引に、白い肌が震えた。
「んく…ッ」
「…ん。ここにも綺麗に咲いたな」
腕の柔らかな皮膚にぽつんと浮く、赤い花弁。
愛おしそうに跡を指先で撫でると、杏寿郎は顔を上げて組み敷いた女を見下ろした。
赤い着物の袖を、金魚の鰭のように布団に広げている。
帯だけで繋ぎ止められている着物が、隠しているのは腹部と下半身だけだ。
行灯の淡い光に照らされた柚霧の上半身の至るところに、花弁は舞っていた。
頸にも、肩にも、胸にも、腕にも、腹にも。
まるで花の木の下で情事を営んでいるかのように。
「だがまだまだ」
「ぁっ」
ちぅ、と新たに吸い付く先は、白い二つの柔らかな丘。