第26章 帰郷
私が無意識にそう口にすると、彼は私に帽子を被せて、何も言わずに歩いていった。
久しぶりに入るそこは懐かしいにおいであふれていて、私を酷く安心させる。
「…お怪我は?痛いところとか…どこか、傷付けられた?」
『…怪我なんかしな、っ…!?へ、…、ぁ…ッきゃ、…っ』
布団を乱雑に敷いたかと思えばそこに仰向けにされて、衣服を緩められていく。
「そんな悲しいこと言わないで…痛かったでしょう?…怪我したら誰だって痛い…強く圧迫されて、そんなに我慢して…」
腕やお腹を慈しむように撫でるその手が優しかった。
震えていた。
だけど、今触れられるのは困る…特に、貴方に触れられるのは。
『…ッ、ン…ク、…っぁ…、』
「……何飲まされたの、言いなさい。…怖がらなくていいから」
『ハ、っ…知らな、い……何も、飲んでなんか、ぁッ…』
「じゃあ何?これは…君の体から分泌されたものじゃないでしょう?」
そっと頬に触れられて、唇を親指で撫でられる。
ダメ、今そんな風に撫でられたら…抑えなきゃいけないのに、我慢しなくちゃいけないのに。
体がどうしようもなく震えて、たまらない。
拒絶されたばかりなのに…なのに、こんな風にするから、期待させられるのに。
『ぁ、…ッ、…ら、め…っ』
「…“澪”、……ごめん、キス…していい?」
『キ、…ッ、ふ…え…ッ…?』
「うん、キス…我慢できそうにない。…いい?」
帽子を外されればその人の瞳が私を捉えて、私はその目に吸い込まれてしまいそうになる。
「嫌がらないなら、ほんとにもらっちゃうけど……抵抗、しないの?」
『ッ、…キ、ス…?喜助さ、んと…?……やっと、こっち向いてくれた…』
「!!!…ッ、ごめんね…、寂しくさせて…っ……ごめん、ごめん澪…、我慢させてばっかりで…」
『…えへへ、……遅いの…遅い、からだもん。…謝らな、…ッン、…ふ、ぁ…ンン、…っ』
なんにも謝らなくていい、君はなにも悪くない。
喜助さんはそう言って以前離れていた百年分もまとめて、二千年分の愛情を私に注ぐ。
やっと見てくれた、私のこと…やっと見てくれた。
一番になれないって、辛いんだ。
見てほしい人に見てもらえないって…寂しいんだ。
「…顔紅い。…そんな可愛い目で見ないで」
『……、喜助さんのこと、見てたい』
「照れちゃうなぁ、もう…」
