第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
その夜、湖が完全に寝付いた頃だ
兼続が、白粉を呼んだ
寝入った湖を信玄に預けて呼ばれた城の一室へ
シュッと、襖が開けばそこには女中となにやら商人と着物
「兼続…?」
白粉をその部屋に入れると、兼続は部屋には入らず廊下から言う
「白粉殿、殿より不調の理由伺っております。今後は、極力力を使わないよう…まずは、お着物から存在するものを着ていただきとう御座います」
「…は…?いや、これはそんなに…」
「駄目です。此処に仕立屋を呼んで御座います。すでに仕立て済みの着物も数点。着付けは女中に任せております」
「何を…」
白粉の眉間の皺が寄るが、兼続はそれを無視する
「以前はお断りされ申したが、今回は言うことを聞いていただきます。お着物、今後は本日用意したものでお歩きください」
パンパンと手がなれば、女中達が「待ってました」とばかり白粉に手を伸ばす
「白粉様、ご安心ください」
「着付けは毎日お手伝いいたします。湖様の母様なのですから」
「お似合いになる着物がたくさんありますよ」
「ま、待て…」
状況について行けない白粉は、戸惑うばかり
なのに彼らは、妖だと解っている自分を怖がることも無く着物を当てていくのだ
(な、なんなんだ…)
むずむずする
でも、不快ではないが…この感情
まるで猫が人に頭を撫でられているような…それに近い
「いい加減に…」
少し威圧を掛けるも、女中達の手は止まらない
女中たちは、初めは皆、白粉の存在が恐ろしいものだと思っていた
だが湖と過ごす姿を、武将達との会話する姿を見ていれば、それは人と変わりないのだ
それに、彼女たちが白粉の妖の姿を見たのは湖と佐助を連れて現われた時だけだ
それすら夢だったのでは…と思ってしまうほどに
着物を当てながら喜ぶ彼女らの顔を見て、白粉はあきらめたように
「いい…好きにしろ」
と、自分の身を包んでいた着物を消した
「「「っ!!」」」
驚いたのは、白粉を囲んでいた女中と仕立屋だ
体の線も、その肌の美しさも、まるで絵巻物なのだ
小さな悲鳴と共に、彼女らの気持ちは盛り上がる
その悲鳴に、襖の外にいた兼続が慌てた声色で中の様子を伺う