第16章 空の上 海の中
肌にスッと外気が触れて、イリスは浅くなった眠りから目覚めた
自分の今いる状況もわからぬまま、目に入った黒い髪と肌に触れる人の温もりに心が反応する
「…うぅ………んっ……エー…ス?」
重い瞼を少し開け、定まらない視点をさ迷わせ、愛しい男の名を口にする
左腕に触れる手を握り返して、イリスはもう一度意識を手離した
彼女の声がローの耳から全身を震わせる
握られた手から伝わる体温が心地いい
ローは吸い寄せられるように声の出どころを求め、イリスの顔に近づいた
「マスクと手袋………忘れてますよ船長……」
後ろを振り返るとペンギンが、マスク、手袋、帽子に白衣、と完全防備で立っていた
医務室に入る時は感染予防のためマスク、手袋を必須としていたローは、自ら決まりを破り、素手でイリスに触れ、顔を近づけていた
「オレには感染しねぇよ…………」
後少しのところでイリスとのキスを邪魔されたローは不機嫌を隠さずペンギンを睨む
「何を根拠に言ってんスか……」
盛大なため息と共に呆れるペンギン
ローがここまでイリスに関心を持っているとは思わなかった
いつも酒場で女を寄せ付けない船長(モテるのに勿体ない)、オレらがお膳立てして、渋々といった感じで相手にしているのしか見たことがなかったのに
「こいつはほぼ治ってる……意識も取り戻したしな………」
ローは、イリスの顔色などから感染の危険は無いと、判断した上での行動だったのだが………
「確かに、エースって誰ッスかね?」
「…………………」
一体いつから見ていたのか…………
またペンギンを睨みつけ、差し出されたマスクと手袋を着ける
彼女の発した言葉が、ローの胸の中でモヤモヤと繰り返されていた