第82章 掌中の珠
「黒子っち、寝起き悪いから全然起きねーんスよ」
確かに、さっきからずっと涼太に引きずられているけれど、身じろぎすらしない。
深い眠りの中に落ちているみたいだ。
「えっと、これ、黒子くん、寝てるんだよね……?」
「うん、バッチリ寝てるっスね……重っ」
寝たふり……という訳ではないんだろう、人間は意識がある時とない時では、身体の重さが全く異なるから。
「とりあえず向こうに寝かせてくるっスわ」
「う、うん、気をつけてね」
涼太は、黒子くんをひょいと抱えて行ってしまった。
どく、どくと騒いでいた心臓が、やっとピークを越えたみたい。お腹の底から深く息を吐くとともに、心電図みたいに大きな山を描いていた鼓動がおさまってくるのを感じる。
枕元に置いてあったスマートフォンで時間を確認しようと触れると、朝一番の太陽のような煌々とした画面が、寝惚けた目を刺激した。
反して、時刻はまだ丑三つ時を越えていない。
朝までちゃんと眠らなきゃ、と思うものの、びっくりして覚醒してしまった目がまた重たくなるまでには時間がかかりそう……。
部屋に戻ってきた涼太は、ソファベッドの端に腰掛けた。
部屋が真っ暗にならないようにサイドテーブルに置いてあるランプが、彼の影をぼんやりと形作ってくれている。
「涼太、起きてたの?」
「いや、オレも寝ちゃってたみたいで。丁度目が覚めたトコ」
「ごめんね、こんな時間に……おやすみなさい」
これ以上涼太の睡眠時間を奪ってはいけない。
一刻も早く彼を夢の中に戻さねばと思って……いたのに、彼はころんと私の隣に転がった。
「……涼太?」
「オレ、今日はこっちで寝よっかな」
「え、えっ? 黒子くんはいいの?」
「ありゃもう朝まで起きないって。ダメ?」
「えっ、だめ、だめじゃないよ、うん」
慌ててお布団の中に彼を招き入れると、夏でも冷え切っている私の足に、体温の高い足が絡まった。