第11章 漆黒の棺桶
だけど、はっきりと"この人痴漢です"などと言えるはずもない。
世の中の女の人はそう言う人が多いと思う。
あたしもその中の一人。
いつもは普通の電車なのに、今日は魔物が乗り込んでいるらしい。
正確には、"欲望"という名の魔物にとりつかれた人。
あたしよりも遥かに年上の、いい歳した大人が情けないと思う。
「あんた、なにしてんだよ。」
突然聞こえた声。
「どうした?」
隣に立っている誠也君があたしの後ろを見ている。
あたしも、なんとか後ろを見る。
「こいつ痴漢してたんだよ……姉御に。」
そう言って男の手を掴む清治君。
「なっ何を―――イタタタタ!!」
痴漢が悲鳴を上げる。
ミシミシと腕に手が食い込んでるからだ。
「あ?…んだと。」
誠也君の目が光った。
ジッと痴漢を見ている。
周囲の人も同じ。
「痴漢だって。」
「あのオヤジマジキモい。」
そんな声さえ聞こえてきた。