第5章 strategie⑤
俺は一瞬崖からトンと背中を押され、谷底にゆっくり落ちていく感覚を感じ、その場で立ち尽くしていたが、また急いで靴を脱いで部屋にあがる。
部屋の全ての扉をバタンバタンと大きな音を立てて開けて行ったが、その扉の向こうはまた同じ静寂があるだけだった。
信じたくなかった。
俺はリビングの真ん中で立ちつくし、それから膝が曲がり、ガクンとその場に座り込んだ。
そうしていると自然と涙が溢れてきた。
俺は怖かった。
怖くて
怖くて
泣いていた。
今までだって一人でやってきたはずだったのに、知らない道に取り残された子供のように俺は足がすくむほどの恐怖を感じた。
孤独を感じた。
「ヒロカ…」
そう声に出してつぶやくとガチャと扉が開く音がする。
俺はチカラなく扉の方を向くと、そこにはスーパーの袋を下げたヒロカがきょとんとした顔で立っていた。