第25章 存在理由
「蔵馬、私はずっと傍にいるわ
離れたりしない。私はあなたのものなの
私の一生はあなたに尽くすと、あなたを好きになった時から決めているの
でも私だって、違う愛情がある。母親を想う気持ちは必ずね
だから蔵馬、おば様を想う気持ちは自然なことなの
蔵馬は本当の自分を産んだお母さんなんて覚えていないでしょ?
だからあなたは、きっと母親というものに憧れていたんじゃないかしら」
蔵馬「……憧れ。オレが…母親を…?」
私の言葉を呟く蔵馬に、そっと頷く。
「だから蔵馬は、秀一の存在を否定しなくていい。秀一も蔵馬を否定しなくていい
自分自身が生まれてくることに意味はあるかもしれない。けれど母親を慕うことに理由なんていらない。
だってそれは当然のことなの。母親を慕うことは、妖怪でも人間でも当たり前のこと。
ただ妖怪は寿命が永遠の様に長いから、親の愛情なんて忘れてしまう。
けれど人間は寿命が短いからこそ、親との絆を宝物の様に大切にする。
でもその逆だってあるの」
蔵馬「……逆?」
「妖怪は長い時を生きるからこそ、自分の恋人を大切にする。
けれど人間は…恋人を大切にする人もいれば、遊び人も沢山いる。
そこもまた一つの違い
蔵馬は私を永い年月ずっと愛してくれてる。まぁ、一回浮気したけど」
蔵馬「このタイミングでそれ言うの?」
「だから同じくらいおば様を想えばいい。
自分が妖怪だからって関係ないの、あなたはおば様の大切な一人息子、秀一なんだから」
蔵馬「……時音」
蔵馬はジッと私を見つめた後、ゆっくりと目を閉じ微笑んだ。
蔵馬「ありがとう、時音」
その笑顔はとても優しくて、見ている私まで落ち着く
これで少しでも気が楽になってくれればいいけど…
蔵馬「さ、そろそろ寝ようか」
「うん」
蔵馬「オレと一緒にね」
「……は?」
寝る?蔵馬と…一緒に!?
な、
「何言ってるの!?」
蔵馬「当たり前だろ?半年も会ってなかったんだ。
オレだって時音不足だよ。
だから、ね?おいで、時音」
だからって…だからって…
そんな、いきなり…
やっぱり蔵馬のこういうところは変わってないんだから……
「バカ秀一!!」
ーーーバシッ
「秀一なんて知らない!!」
そう言い捨てて私は秀一の部屋を出た。
蔵馬「……残念」