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【H×H イルミ 】黒と白のアリア 

第2章 歪んだ共鳴


ある日の夜遅く、使用人がニナの粗末な部屋を訪れた。
「ニナ様、イルミ様がお呼びです。二階のピアノの部屋へお越しください」
ニナは水を切っていた手を止め、濡れた指先を布で拭った。顔には戸惑いが浮かぶ。
前回の出来事以来、イルミと目を合わせるのも気まずい。
胸の奥がざわつくのを感じながらも、彼女は静かに立ち上がった。
「……はい。すぐに参ります」
重い樫の扉の前に立つと、心臓の音が少し速くなる。それでもニナは深呼吸をし、静かにノックした。
「失礼いたします……ニナです」
中から返事はない。
代わりに、扉がわずかに開いていた。
ニナはそっと部屋に入った。
イルミはすでにフォルテピアノの前に座っていた。手を鍵盤に置くと、ニナの方を振り返りもせず、弾き始めた。
闇の美しさと危険な魅力に満ち、聞く者を静かに深淵へと誘う——いつものイルミの音楽。
ニナは少し離れた場所に立ち、羽織の端を指先で握りしめ息を殺していた。
金の刺繍が細かく施された袖の下で動く白い指が、無機質なほど正確に鍵盤を押さえていく。
イルミの指が止まった。
鍵盤に視線を落としたまま、低く抑揚のない声で言った。
「この曲は……覚えてるね」
ニナは一瞬、息を飲んだ。
「……はい」
「歌って」
指示は曖昧だった。
どこから、どの部分を、どんな風に。
何も指定されていない。
ニナは戸惑いながらも、ゆっくりと目を閉じ、さっき聞いたばかりの旋律を思い浮かべた。
そして、感じるままに歌い始めた。
「ララー……ラララ……♪」
柔らかく、切ない声。
彼女の歌にイルミのピアノの音がそっと差し込まれる。
しかし、すぐにイルミの指が止まった。
「違う」
冷たい声。
「そうじゃない」
ニナは言い返さず、ただ小さく頷いた。
もう一度、息を整えて歌い直す。
今度は少し音程を意識し、旋律の流れを丁寧に合わせようとした。
「もう一度」
イルミの声は相変わらず無感情だった。
ニナは何も言わず、何度も歌い直した。
音だけを修正していく。
同じモチーフを、何度も。
何度も。
 
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