第4章 感情線の混線
あと1200、あと1200、あと1200、
「あと1200、」
あ、やば、声に出た。
気の遠くなるような、長い長い本部の廊下、あたし以外誰も歩いてないから良かったものの、家を出てからずっと、呪文のように呟く数字は頭から離れてくれない。
昇格までの数字、あと1200。
期日は明日だ。
単純計算で1日600か。
救いなのが今日は週末で、人が多いってこと。
片っ端からお願いすることも、よく吟味して相手を選ぶこともできる。
ここまで来たらもう意地だと思う。でも絶対やってやる、頑張ろう。そう自分を叱咤したら、鞄の中の端末が震えて確認すると、この無謀とも言える課題を押し付けた張本人からだった。迅さんが連絡してくるって珍しいな。
「もしもし」
「あー、もしもし花衣ちゃん?実力派エリートですけど」
「名前出てるから分かりますよ、ていうかそれ、わざわざ付けないとダメなんですか?」
いつもの調子で聞こえた声。滅多と連絡なんてしてこないけど、開口一番いつもこれだ。もうそろそろ飽きてきた。
「いや、この方が分かりやすいかなって」
「だから取る前にわかりますって。で、どしたんですか?」
「花衣ちゃん今日夕方までいるよね?」
「はい、その予定ですけど」
「おれ今日任務でさ、夕方終わるからちょっと付き合ってくんないかな」
「なんで?」
「話したいことあってね」
「……分かりました、終わったら連絡下さい」
「りょーかい」
会話は僅か数秒。要件を簡潔に述べてくれるのは有り難いけど、話したいことってなんだろ。また無理難題を言ってくるようなら、今度こそ絶対きちんと断ろう。
この1週間、今まで以上に学業も疎かになってんのに、さすがにこのままじゃダメだ、太刀川さんみたいになっちゃう。
自分の趣味を最優先にした成れの果てを想像して、何としてでも明日までにはクリアにしたいと気合いを入れた。