第3章 色づいて、舞い踊る
あの時あんなこと言われなければ絶対知らなかったし、ボーダーになるなんて選択は絶対しなかった。
未だ人で騒つく方向に視線を飛ばして笑ってるこの人と、適度な距離で関わってみて分かったのは、未来視なんてものがなくても、自分の心の弱い部分を見透かされるような不思議な雰囲気を持ってる。
だから苦手だったんだ。
過去を遡って、なりふり構わず噛み付いた自分はなんとも大人気なかったな。苦い笑いが出てきそうになって、そうしてふと思った。今日の今日まで必死すぎて忘れてたこと。
「迅さん」
「ん?」
「あたしが出会わなきゃいけない人物がいるって言ってましたよね」
「うん」
「それって、ここの人?一般の人?それともまだ言えない?」
「………ないしょ」
「ですよね。さて、午後から何セットいきますか?」
「あれ、食いつかないの?」
「食いついてほしくないからそんな言い方したんでしょ」
「さすが花衣ちゃん、よく分かってんじゃん」
分かるもなにも、あからさますぎる。煙に巻くのは専売特許でしょ。
気にならないって言ったら嘘だ。でも何としてでも聞きたいと、躍起になれるかって言われたらどうだろう。
「花衣ちゃん、5本6セットか10本3セットどっちがいい?」
「それどっちも一緒じゃないですか」
今は、いらないや。
別に知らなくても。
それよりもぼこぼこにされて、腹立つって悔しがって。太刀川さんにそんなんもできないのかって馬鹿にされて、たまに迅さんとこうやって話してるだけでそこそこ楽しいから。
「でもひとつ言えるとしたら、そんな構えてなくても大丈夫」
「そうですか、そりゃ良かったです」
真っさらな白い隊服。
希望に満ちた、きらきらした目。
その横を2人ですり抜けてブースへ向かう。
自分で自分は見れないけど、もし誰かが今のあたしを見た時も、たぶん、きっとそんな表情をしているんだろうなと思った。