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天狐あやかし秘譚

第74章 雲蒸竜変(うんじょうりょうへん)


できるだけ身体を小さくして家の陰から陰に走っていく。家と家の間の小さな道にはできるだけ入らないようにしていた。そんなところで挟み撃ちにあったら一巻の終わりだからだ。

おっと、こっちの道には大分たくさんいますね。危ない、危ない。
『辻神』の集団を見つけては踵を返す。こんなことの繰り返しだ。

ジリジリと時間は経つが、このときの私はわりと楽観していた。なぜなら『辻神』の動きは単調であり、自分から狭い道に入り込むなどということをしなければ、木札や夜魂蝶で十分いなせる、と考えていたからだ。呪力が尽きるのは怖いが、あと4〜5時間なら余裕で保つし、それくらい時間があれば助けが来る公算が強いこともわかっていた。

しかし、あとから考えると、この驕りが良くなかった。あと、呪力の消費を抑えることに熱心になりすぎていたのもまずかった。いつもの私、『千里眼土門』なら周囲を油断なくサーチしながら行動するが、このときは木札や夜魂蝶による惑乱に力を注いでしまったのだ。

そう、私は気づくことができなかったのだ。いつの間にか、『辻神』たちの動きが変化して、私を追い込むように動いていることに。そして、それに気づいたときにはもう、遅かった。

私は、山の上、例の破損した神社の境内に追い詰められてしまっていた。
神社の境内の周囲には黒々とした影の塊である『辻神』がひしめいていた。これだけの数がいるとなると、木札による囮も、夜魂蝶による目くらましもおそらく効果はないだろう。呪力の出力を抑制されている以上、攻撃に転じてもその効果はたかが知れているだろう。

・・・やられました・・・

うそうそと蠢く影を眺め、歯噛みするが、どうすることもできない。
万事休すとはこのことだ。

徐々に『辻神』たちがその包囲の輪を狭めてくる。

宝生前さん!

眼の前に幾重もの気味の悪い黒い手が伸びてきた時、私の脳裏に浮かんだのは、やっぱり大好きなあの人の顔だったのである。
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